高齢者の処方カスケード実態、入院時保有率13%・最多はCa拮抗薬×利尿薬

論文紹介
老年薬学 デイリー論文レポート

入院は処方カスケードを正すのか、増やすのか──1万人超レジストリの答え

2026年7月21日(火) ポリファーマシー・処方カスケード・移行期医療
本日の1報
入院高齢者における処方カスケード:REPOSIレジストリを用いた後ろ向きコホート研究
Restelli A, Crippa C, Nobili A, Mannucci PM, Pasina L; REPOSI Investigators. Prescribing cascades among hospitalized older adults: a retrospective cohort study from the REPOSI registry. Intern Emerg Med. 2026 May 12.
著者Restelli A, Crippa C, Nobili A, ら(REPOSI Investigators, Istituto Mario Negri, ミラノ)
雑誌Internal and Emergency Medicine 2026(オンライン先行公開)
掲載2026年5月12日(購読誌、抄録のみ無料閲覧)
リンクdoi:10.1007/s11739-026-04338-6 PMID 42118390
デザイン多施設後ろ向きコホート研究(イタリア内科・老年科病棟レジストリ)
研究サマリー
対象REPOSIレジストリに登録された65歳以上の内科・老年科病棟入院患者 10,253例
期間入院時→入院中→退院時→退院3か月後フォローアップ
介入/曝露ThinkCascadesフレームワークが定める9種類の代表的処方カスケード(最多はCa拮抗薬+利尿薬)
手法入院時は「未確定」カスケード、入院中/3か月後は「新規導入」カスケードとして時点別に集計する記述疫学的解析
アウトカム各時点での処方カスケード保有患者数・件数
処方カスケード(prescribing cascade)とは。ある薬剤(索引薬)の副作用が新たな病態と誤認され、それを治療するための別の薬剤(マーカー薬)が追加されてしまう現象。代表例はCa拮抗薬による下腿浮腫が心不全や静脈うっ滞と誤認され、利尿薬が追加されるパターンで、本研究でも最多を占めた。
結果 ① 入院時点、7〜8人に1人が「未確定カスケード」を保有

95%信頼区間は報告されたn数(1,335/10,253)から筆者計算(正規近似)。入院時点で処方歴の前後関係が確認できないため「未確定」と分類されているが、その内訳の65.6%(n=932)をCa拮抗薬+利尿薬の組み合わせが占め、突出して多いパターンだった。

結果 ② 入院というタイミングは「是正の窓」になり得るか

入院中は是正された件数(474件)が新規導入された件数(305件)を上回り、差し引きでは正味169件分の改善だった。ただし退院後3か月間でも31件の新規カスケードが発生しており、入院というイベントが処方カスケードのリスクを完全には遮断しないことが示された。

結果 ③ 主要パターンと頻度の偏り
  • Ca拮抗薬利尿薬(浮腫の誤認) 未確定カスケードの65.6%(n=932/1,335)を占める最多パターン
  • 9種類のThinkCascadesパターンのうち4種 3時点いずれでも低頻度または該当例なし。優先順位付けの余地あり
入院時 未確定 13.0% 入院中 是正474/導入305 退院3か月後 新規導入31例 退院後も外来で新規カスケードが発生し、次回入院時に持ち越される 移行期医療でのモニタリングが鍵
REPOSIレジストリ(10,253例)における処方カスケードの時点別推移。入院中は是正が新規導入を上回ったが、退院後も新規発生は途切れず、外来・在宅への移行期こそ再評価の好機であることを示唆する。
結論
  • 内科・老年科病棟入院高齢者の約13%が入院時点で少なくとも1つの「未確定」処方カスケードを保有していた。
  • 最多パターンはCa拮抗薬による下腿浮腫を利尿薬で治療してしまう組み合わせで、未確定カスケードの3分の2近くを占めた。
  • 入院は是正の機会にもなり得るが(是正474件 vs 新規導入305件)、退院後3か月間でも新規発生は続き、9パターンのうち頻度の高いものへの優先的スクリーニングが実務的との示唆が得られた。
日本の現場への示唆
  • 入院時トリアージでCa拮抗薬+利尿薬の組み合わせを最優先チェック

    本研究で未確定カスケードの65.6%を占めた組み合わせは、日本の急性期病棟でも頻用薬同士の組み合わせであり、持参薬鑑別の段階でスクリーニング項目に組み込む価値が高い。

  • JARSスコアへのカスケード項目の統合を検討

    「索引薬→マーカー薬」の組み合わせをJARSスコアの評価項目に加えることで、潜在的不適切処方の見落としを減らし、薬物療法最適化チームの介入優先度づけに活用できる。

  • 退院時サマリーへの「是正記録」の明記

    入院中に中止できたカスケードを退院時サマリーに明記し、かかりつけ医・地域薬局への情報連携を徹底することで、退院後の再導入(処方の巻き戻り)を防ぎやすくなる。

  • 退院後3か月のフォローアップ体制の重要性

    入院中の是正だけでは不十分で、外来移行後も新規カスケードは発生し続ける。地域連携薬局と協働した退院後薬剤師フォローアップ(電話・訪問等)の仕組み化が有効と考えられる。

  • 全カスケードを均等に追うより、頻度の高いパターンに絞った運用を

    9パターン中4パターンは低頻度〜皆無だったことから、限られたマンパワーの中では高頻度パターン(Ca拮抗薬+利尿薬等)への重点的スクリーニングが費用対効果に優れる可能性がある。

老年薬学 デイリー論文レポート / 2026年7月21日
出典:Internal and Emergency Medicine(Springer Nature, 購読誌)。数値は原著抄録より引用、95%信頼区間の一部は報告されたn数から筆者が算出。要約と考察は本レポートによる。

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