老年薬学 デイリー論文レポート
救急退室処方の1割がハイリスク薬 ― 65万件データで見る転倒リスク薬の実像
本日の1報
救急外来を退室した高齢者におけるハイリスク処方の全国的評価
High-Risk Medication Prescribing Among Older Adults in the Emergency Department: A National Assessment
| 著者 | Follman SE, Canavan M, Rothenberg C, Iscoe M, Venkatesh AK, Ramachandran R, Gettel CJ, ら |
|---|---|
| 雑誌 | Academic Emergency Medicine 2026;33(5):e70321 |
| 掲載 | 2026年5月1日(オンライン公開、オープンアクセス) |
| リンク | doi.org/10.1111/acem.70321 |
| デザイン | 横断研究(2017-2022年 Merative MarketScan Medicareデータベース) |
研究サマリー
| 対象 | 救急外来(ED)を退室した65歳以上の高齢者 ED受診61万6,980件 |
|---|---|
| 期間 | 2017年-2022年(6年間の請求データ) |
| 介入/曝露 | GEMS-Rx該当薬(8クラスのハイリスク処方)の退室後3日以内の調剤 |
| 手法 | 多変量ロジスティック回帰による患者・年次要因との関連推定 |
| アウトカム | GEMS-Rx該当薬の退室後3日以内調剤の有無、年次トレンド |
GEMS-Rxとは。Geriatric Emergency Medication Safety Recommendationsの略。Beers基準のうち救急外来での短期処方に特化して抽出された8クラスのハイリスク薬リストで、第一世代抗ヒスタミン薬・第一世代抗精神病薬・ベンゾジアゼピン・バルビツール酸・Z薬(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)・メトクロプラミド・骨格筋弛緩薬・長時間作用型スルホニル尿素薬が含まれる。
結果 ① 退室後処方は減少傾向も、なお約10人に1人
61万6,980件のED受診のうち、退室後3日以内にGEMS-Rx該当薬が調剤された割合は全体で9.4%(95%CI 9.4-9.5%)。2017年の11%から2022年の7%へと漸減しており、追加1年ごとに調剤オッズが有意に低下する傾向が確認された。ただし依然として約10人に1人が退室直後にハイリスク薬を受け取っている実態は変わらない。
結果 ② 女性高齢者でリスクが高く、超高齢層では逆に低下
結果 ③ GEMS-Rx該当薬の内訳
- ベンゾジアゼピン系→GEMS-Rx充填の37% 最多クラス。転倒・骨折・認知機能低下との関連が指摘される代表的FRIDs(転倒リスク増加薬)
- 第一世代抗ヒスタミン薬→22% メクリジン等。抗コリン作用による転倒・せん妄リスクの上昇
- 骨格筋弛緩薬→11% メトカルバモール等。鎮静作用による転倒・過鎮静リスク
結論
- 61万件超の全国データで、ED退室後3日以内のGEMS-Rx該当薬調剤率は9.4%(95%CI 9.4-9.5%)。2017年11%から2022年7%へ漸減しているが、依然として約10人に1人が該当する。
- 調整オッズ比は女性で1.43倍と高く、85歳以上では0.47倍と低い―性差・年齢差を踏まえたリスク層別化の必要性を示す。
- 最多クラスはベンゾジアゼピン系(37%)・第一世代抗ヒスタミン薬(22%)・骨格筋弛緩薬(11%)で、いずれも転倒リスク増加薬(FRIDs)に該当する。
日本の現場への示唆
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救急退室時処方の見える化
GEMS-Rx相当リストを院内の退室時処方チェックに組み込み、STOPP/START基準・Beers基準と併用することで、ED発の処方カスケードの入口を可視化できる。
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女性高齢者への重点的な確認
調整オッズ比1.43倍という結果を踏まえ、女性患者では特にベンゾジアゼピン・抗ヒスタミン薬の適応と期間を確認するフローを設けたい。
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JARSスコアとの連携
薬物療法最適化チームがED/救急外来からの退室時処方をJARSスコア算定の対象に組み込み、骨格筋弛緩薬・抗ヒスタミン薬など短期処方であっても転倒リスクの観点から薬薬連携でフォローする仕組みを検討する。
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短期処方であることの過小評価に注意
ED処方は「短期だから安全」と見なされがちだが、骨格筋弛緩薬や抗ヒスタミン薬は数日の使用でも転倒・せん妄のトリガーになり得る。移行期医療における薬剤師の介入ポイントとして位置づける。
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自院データの定点観測
2017-2022年で全国的に処方率が低下した背景にはEQUIPPED等の介入プログラムの普及があるとされる。自院のPIM処方率をモニタリング指標として設定し、薬物療法最適化チームの活動効果を経時的に評価する材料としたい。
老年薬学 デイリー論文レポート / 2026年8月8日
出典:Academic Emergency Medicine(Wiley, John Wiley & Sons)。数値は原著より引用、要約と考察は本レポートによる。
出典:Academic Emergency Medicine(Wiley, John Wiley & Sons)。数値は原著より引用、要約と考察は本レポートによる。


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